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◆ 02空白の35.5話 ◆


※お戻りは左のメニューの「その他」から・・・

■はじめに
えと・・・他の方のような立派な小説を期待していたら、即座にお帰りくださいませm(__)m 基本的には、自分の補完のためのものなので・・・

それでもいいっておっしゃるきとくな方は、よかったらお進みくださいませ。

ああ、最初に謝っておきます。 この話、考えてたのは本当に36話放送直後くらいだったのよ。 だから、まだいおりんの父がどうしてなくなったのかとか、わからなかったのよ・・・^^; というわけで、その辺含めて、いろいろご勘弁をばm(__)m


■前置き
この話は、35話の直後の話だと思ってください。そして、伊織の父親が殉職したいきさつ(四十何話でしたっけ??)を見る前に書いた話なので、ここで想像していたのと一部違うところがあります・・・ それと、もともと国語2の成績だった遊歩さんなので、文章、読みづらい、要点わかりづらいってことがあるのと、伊織もタケルも大輔も、こんな人間じゃない・・・ってのがあるとは思いますが、それもこれも、遊歩さんなりのデジアド02の解釈ということで・・・ では、後ほどあとがき(ってほどじゃないけど)でお会いしましょう。


『許せない・・・許せない・・・。 恐怖や憎悪、暗黒や戦慄・・・ 力で世界を変えようなんて・・・ 世界を手に入れようなんて ・・・・・・・・ 許せない!!』
『命に、いいも悪いもないんだ。 命は、ただそこにあるだけで、すばらしいものなんだ。』


頭の中に響いてくる二つの言葉で、ボクは目を覚ました。 窓ガラス越しに反射して見える時計は、午前3時をとうに回っていた。 

「眠れないだぎゃぁ?」

となりでウパモンが心配そうに声をかけてくれたけど、ボクの頭は朦朧としていて、その声に上手くこたえることが出来なかった・・・。


そう、このところ、昼となく夜となく、タケルさんのことが頭の中から離れない日が続いていた。 タケルさん・・・ボクのジョグレスの相手であろう人・・・。 気がつけば、大輔さんと一乗寺さん、京さんとヒカリさんは、ジョグレスを成功させていた。 そして、ジョグレスを成功させるには、心と心が通じ合わないといけないらしい・・・。 


そう。ボクは焦っていたのかもしれない。 だって・・・ ボクだって、みんなと一緒に・・・一人前に戦いに加わりたい。 そりゃ、ブラックウォーグレイモンを倒すのは、あまり気が進まないけれど、でも、ホーリーストーンを破壊されては、デジタルワールドだけでなく、ボクたちの現実世界まで影響が及ぶだろうし・・・
そんなことは、絶対にさせてはいけない!! ブラックウォーグレイモンを完全に滅ぼしてしまうのは、僕には賛成できかねるけど、少なくとも、今のボクたちには、彼の暴走を止められるだけの戦力は必要だし・・・。


なのに・・・なのに、ボクには、タケルさんのことがわからない・・・。 いつもは優しいタケルさんなのに、闇の力のことになると、突然人が変わったように厳しくなるタケルさん・・・。


この間、思い切って聞いてみた、「どうしてそんなに闇の力を憎むんですか?」って。
でも、なんだか、こたえをはぐらかされてしまったみたいだった・・・。
「僕は、闇の力そのものが憎いんじゃあない」って言ってたけど、
エンジェモンがブラックウォーグレイモンにやられていた時のタケルさんの表情は、そうは見えなかったし。


“きっと、ボクに直接言えないことがあるんだろう”と思ってヤマトさんのところまで訪ねてみたけれど・・・ ヤマトさんは、タケルさんがパタモンを闇の力によって一度失ったことを教えてくれたけれど・・・


でも、まだ、ボクにはタケルさんのことがわからない・・・。 いや、わからないというよりは、タケルさんの心が伝わってこないといったほうが正しい感じがする。 だって・・・ヤマトさんが教えてくれたタケルさんの気持ちは、ボクにも少なからず理解できるけれど、それは、タケルさんの口から聞いたことじゃない。 確かめてみたいのに、この話をしようとすると、タケルさんの心が閉ざされてる感じがするんだ。 それなのに・・・こんな状態で、果たしてジョグレスなんてできるのだろうか?


ああ、また今日も眠れなさそうだ。 無理やりに眠ろうとして目をつぶってみたが、今度は別の気持ちが、ボクの眠りを妨げる。 “ボクは、タケルさんのことをもっとよく知りたい・・・。 だけど、他人(ひと)の気持ちって、そんなに簡単にわかるものだろうか?” 思えば、気持ちがわからないのは、タケルさんだけじゃない・・・。 何の因果か、『選ばれし子供たち』として長い時間(とき)をすごしてきたけれど、ボクは、みんなのことを理解しているのだろうか?


大輔さん・・・ いつも明るくて、ドジだけど憎めない先輩。 ボクのクラスにも大輔さんみたいな子がいるなぁ。 でも、大輔さんも、時々ボクにはわからなくなる。 特に、一乗寺さんがかかわってくると・・・・ そう、大輔さんは、あの人のことを無条件で受け入れているみたいだ。 最初にあの人を『仲間』として認めたのも大輔さんだし、あの人の為に、頭を下げてまで、ボクたちを説得しようとさえしたし。 一体、どうしたらあんなに無条件に他人(ひと)を受け入れることができるんだろう?? ボクにはわからない・・・。


京さん・・・ 彼女も、いつも明るくて、ドジなところがあるけれど、でも、時々、とてつもなく頼りになる。 ボクに姉がいたら、あんな感じなのかなぁ? でも、京さんも、ボクにはわからない時がある。 ボクの思い違いなのかもしれないけれど、京さんって、何を考えてるのかわからないように思えるんだ。 なんて言っていいのかな?理屈じゃなく、感情で動いているような・・・ ボクには、それがいいことなのか悪いことなのかなんてわからない。 ただ、ボクには、そういう風に、感性だけで物事を判断する習慣がないから、よくわからない。 過去は過去、現在は現在と割り切るのは、ボクには・・・たぶん・・・出来・・・ない・・・・


ヒカリさん・・・ 学校でも先輩だし、『選ばれし子供』としても先輩な人。 常に、相手の気持ちを理解しているようにも思えるけど・・・ 肝心の、ヒカリさんの気持ちを聞いたことは全然ないかもしれない。 いつも「もうちょっと様子を見ましょう」と言ってばかりで。 どうしてなんだろう?ボクは、彼女の意見を聞いたことがないや。


そして、一乗寺さん・・・ そう、デジモンカイザーとしてデジタルワールドを征服しようとした人・・・。 ボクは、彼のしたことが許せない・・・。 自分の支配欲の為に、他人を傷つけるだなんて。 なのに、気がついたら、いつのまにか、彼が『仲間』になっていた。 そう、なし崩し的に、彼はボクたちと行動をともにするようになっていた。 最初は、サンダーボールモンに襲われたボクを助けてくれた。 そして、大輔さんとジョグレスできるようになってからは、気がつくと、ボクらの戦いの中に彼がいるようになった。 でも・・・でも・・・・ ボクの中の戸惑いは、消える気配がない。 あの人は、『カイザー』だった男だ・・・ ボクは、『カイザーのしたこと』が許せない。今でも許せない。 デジタルワールドをめちゃくちゃにした人なんだ!! 許せない・・・。 ボクはまだ、大輔さんや京さんのように、彼を仲間としては受け入れられない。 

・・・・・でも・・・何が許せないんだろう? ボクは、『カイザーのしたこと』が許せないのか? それとも『カイザー』が許せないのか? わからない・・・。 カイザーじゃなくなった一乗寺さんのこともわからない。

ボクには、まだ、自分の気持ちがわからない。

結局、ボクにはみんながわからない・・・・。

=====

「伊織ぃ、起きないと遅刻するだぎゃ〜!!」
ウパモンの声で目を覚ました。 どうやら、昨夜は、途中で考えつかれて寝てしまったみたいだ。 今日もまた寝不足のまま、ランドセルを背負って、慌てて学校に向かって駆け出した。

=====

そして、放課後。 4月に、不思議な機械 -- D−3って言うんだっけ? -- を手にして以来、ボクたちは放課後になるとパソコンルームに集まって、デジタルワールドに出向いていた。 そして、今も、いつものように、パソコンルームに足が自然と向かっている。 なぜ選ばれたのかはわからないけれど、『選ばれし子供たち』として、ボクらは、可能な限りデジタルワールドを守るために・・・。


最初は、すごく戸惑いがあった。 ボクには剣道の稽古もあったし、他にもやることがあった。 いきなり、わけのわからない”でじたるわーるど”を守れといわれても・・・。 でも、いつのまにか気持ちが変わってきたんだ。 デジタルワールドを守りたい、ボクたちの世界も守りたい。


・・・なのに・・・いくら選ばれし子供とはいえ、ボクらはただの小学生だ。 授業をサボるわけには行かないし、夕食までには家に戻らねばならない。 デジタルワールドにいけるのは放課後の数時間だけだなんて・・・。 もしかしたら、この瞬間にも、ブラックウォーグレイモンに最後のホーリーストーンを破壊され、デジタルワールドも、ボクたちの現実世界も崩壊してしまうかもしれないのに・・・。


そもそも、なんでブラックウォーグレイモンはホーリーストーンを破壊しようとするのだろう? なんで、ブラックウォーグレイモンは生まれてきたのだろう? アイツは、アルケニモンがダークタワーから創った、ただのダークタワーデジモンなんだっけ?? そうだ、ダークタワー・・・。 そもそも、ダークタワーは、誰が建てたんだっけ? カイザーだ、デジモンカイザーだ・・・・。 いけない、また昨日の夜の考えが頭にめぐってきた・・・。


一乗寺さん・・・。 かつて、デジタルワールドを支配しようとした人・・・。 ボクは、今でもカイザーを憎んでいる。 でも、最近、あの人のことを考えると、もう一人の一乗寺さんが浮かんでくる・・・。 サンダーボールモンからボクを助けてくれた一乗寺さん。 ギガハウスで、「あきらめるな!」といってくれた一乗寺さん。
暴走した動力炉を「こなごなにしてくれ・・・跡形もなく・・・」と言った一乗寺さん。 「君たちが手を染めることはない」と言って、一人でカイザーとしての罪を償おうとする一乗寺さん。


マグナモンがキメラモンを倒した時、ボクは、一乗寺さんは二度とデジタルワールドには戻ってこないと思っていた。 あれだけひどいことをしてきた世界に戻ってくるなんて、どういう神経をしているのかと思った。 それに、それ以上に、ボク“が”一乗寺さんに、デジタルワールドに来てほしくなかった。 だって・・・罪を犯した人間が、「責任能力を問えないから」と言われて、また、罪を犯しに社会に戻ってきたみたいで・・・。 一度犯してしまったことは、どうあがなっても取り戻せない。 そう、父さんが戻ってこないように・・・。


その当時、ボクはあまりに小さすぎて、父さんが死んだときのことはほとんど覚えていない。 いつのまにか、ボクたち家族から父さんが消えてしまっていた・・・。 そして、後からおじいちゃんに聞かされたんだ、父さんは、立派にジュンショクしたんだ」って。 『ジュンショク』・・・犯人が、自分の私利私欲の為に、無関係な人を殺しておいて・・・なんで“立派”なんだろう?? ボクは・・・ボクは・・・父さんを殺した犯人が許せない。 ボクから父さんを奪った犯人が許せない。 犯人が、どんな理由で父さんから命を奪ったのか、ボクにはわからない。 知る由もない。 そんなことはどうでもいいんだ・・・。 ボクは、ただ、名前もしらないそいつが憎かった。


“ツミヲニクンデ、ヒトヲニクマズ”
父さんも、おじいちゃんも、よくボクに言ってくれたおまじない・・・。 だけど、ボクにはその意味がわからなかった。

=====

「伊織君、そんなところで何してるの?」
京さんの声に、ふと我に戻った。 どうやら、ボクはパソコンルームの扉の前で、ボーっと立ち止まってたみたいだ。 日ごろ剣道で鍛えた集中力が全然役に立たない自分にいらだちながら、パソコンの前に立つ。


そう、昨日、とうとう6つ目のホーリーストーンも壊されてしまった。 心があるといわれるブラックウォーグレイモンにも、ボクの気持ちは通じず、6個目のホーリーストーンは、あっけなく崩れ去った。 アイツに心なんてあるんだろうか?


ウパモンがチューチューゼリーを吸っているところが目に入る。 “もっと、柔らかい頭をもたんと・・・” おじいちゃんの声が、ふと心に浮かんでくる。


「ボクは、ブラックウォーグレイモンの心がわかるのだろうか?」
ブラックウォーグレイモンだけじゃない、みんなの心がわからない・・・。 だけど・・・ボクは、みんなの気持ちになって考えてきたのだろうか? みんなの視点で考えたことはあっただろうか? タケルさんのことだって・・・純粋に、タケルさんのことが知りたかったのだろうか?


いや、違う・・・。 ボクは焦っていただけだったのかもしれない。 「一人前に見られたい」その一心だったのかもしれない。 ジョグレスできずに、みんなの足を引っ張ってるような気がして、いつも、引け目を感じていただけなのかもしれない。


「デジタルゲート、オープン! 選ばれし子供たち、出動!」
京さんの声でデジタル・ワールドに向かう。

=====

デジタルワールドには、すでに一乗寺さんがいた。 彼を見つめる視線は、大輔さんのように暖かいものばかりじゃあない。 なのに、彼は、一向にデジタルワールドに来るのをやめない。 そればかりか、時折混じる冷たい視線にも耐えながら、ボクたちとともに行動している。


ボクの、一乗寺さんに対する視線は、どうして暖かくなれないんだろう? だって・・・あの人がいたから、デジタルワールドがこんなにめちゃめちゃになっちゃったんだよ??? ”ツミヲニクンデ、ヒトヲニクマズ・・・”
そんなこと・・・出来ないよ・・・ 父さんを殺した犯人を許すだなんて・・・。 一乗寺さんと、父さんを殺した犯人が、ふとダブって見えた・・・。 もしかして、ボクが許せないのは、一乗寺さんじゃあないのかな? 父さんがボクの前から消えてしまった、やり場のない怒り・・・。 父さんを殺した犯人が、いくら罪を償ったとしても、もう、父さんは戻ってこないという、やり場のない気持ち・・・。 見たこともないその犯人と、一乗寺さんを、ボクは知らず知らずのうちに重ね合わせて見ていたのかもしれない・・・ 憎んでいたのかもしれない・・・。 今なら、一乗寺さんの目線になれるかもしれない・・・・。


「じゃ、今日も手分けして、最後のホーリーストーンを探そうぜ!」
大輔さんの声で、僕たちはそれぞれ3方に散っていった。


ボクは、タケルさんと一緒に、デジタルワールドの森の中をさまよった。 ボクたちは、沈黙がこわくて、他愛もない話をしながらホーリーストーンを探してまわった。


そして、結局ホーリーストーンは見つからずに、現実に戻る時間が来てしまった。 タケルさんの気持ちも、見つけられないうちに・・・。

=====

再びパソコンルームに戻ってきたボクたちは、階段を下り、下駄箱で靴に履き替えて、校門に向かって歩き出した。


「今日も、アイツ、一人で帰っちまったな・・・」
「だって、一乗寺君の家、田町なんだもの・・・いっしょにお台場に戻ってきたって、交通費がかかるだけじゃない?」
「そりゃそうだけどさぁ・・・アイツも仲間なんだからさ〜」


“仲間”・・・その言葉に、必要以上に反応してしまう・・・。 ボクは、彼のことを仲間として認められるのだろうか? ふとタケルさんの方を見ると、タケルさんも、みんなに悟られないように、細かく肩を震わせている・・・ように見えた・・・。


「そういえば、こないだは、はじめて賢君もいっしょにこっちに戻ってきたよね。 しかも、あの日、結局大輔んちに泊まったんだって? ねぇねぇ、賢君って、どんな感じなの?? 『失われた天才』とかって言われてるみたいだけど、相変わらず、大輔とちがって、賢君って頭よさそうだよね? 賢君も、普通のテレビとか見て、普通の生活とかってするのかなぁ?」


京さんの無邪気な言葉が、ボクとタケルさんを過剰な反応にさせる。


「・・・ごめん、今日、用事があったのでここで失礼するよ」
校門を出てワンブロック目の十字路で、タケルさんがこう言って、駆け足でその場を去っていった。


ボクは・・・タケルさんのことが気になりながらも、みんなの後を数歩遅れてついていく。


相変わらず3人(というより、ヒカリさんは、基本的にはうなずいているだけみたいだけど)のとりとめもない会話が続いている。

一乗寺・・・一乗寺・・・

会話の中に繰り返される言葉・・・

一乗寺・・・一・・・乗寺・・・・いち・・・じょうじ・・・

じょうじ・・・じょうぎ・・・定規??

あれ?そういえば、今日の宿題で定規を使わなきゃいけないんだった。 で・・・ちゃんと忘れずに持って帰ろうとして、机の上に目立つように置いておいて・・・・ そのまま、気付いたらパソコンルームに足が向かってたんだっけ? 

「すみません、ボク、学校に忘れ物してきちゃったみたいです・・・ 先に帰っててもらえますか?」

ボクは、今来たばかりの道を、再び教室へと駆け足で戻って行った。

=====

「あった、あった!」

定規は、目立つように机の上に置かれていたままだった。 “せっかく目立つようにしていても、心が上の空じゃあ・・・” ボクは苦笑しながら、教室を後にする。


どうした訳だか、まっすぐ下駄箱に向かうはずが、気がつくとパソコンルームの前に立ち止まっていた。 “いやだなぁ・・・すっかり条件反射になってしまったのかな?” そのまま下駄箱に向かおうとしたが、ふと、パソコンルームの中から、何か物音がした気がして、息を殺して、扉越しに中の様子をうかがう。 

“誰かいるみたい・・・” 

おそるおそる、パソコンルームのドアを開けてみる・・・・。

「タ・・・タケルさん??」

そこには、途中でボクたちと別れたはずのタケルさんが立っていた。

「い・・伊織君??」

タケルさんも、ボクの顔を見て一瞬戸惑いの表情を浮かべた・・・ようだ。

「い、伊織君?!どうしたの??」
「タケルさんこそ、用事があったんじゃないんですか?」
「伊織君になら、本当のこと話しても大丈夫そう・・・かな。
本当は、用事なんて、何もなかったんだ・・・。
ただ、何となく、あの場にいるのがつらくって・・・」
「一乗寺さん・・・のことですか?」
「うん・・・。なんだかさ、大輔君達はすっかり彼を
仲間として認めてるようだけど、僕にはどうも・・・」
「彼がカイザーだったから・・・ですか?」
「それもある・・・かな。
でも、例えどんなことがあったにせよ、
闇に飲み込まれた時点で自分の負けなんだ・・・・」


心なしか、タケルさんの肩はかすかに震えているように見えた。 表情も、かつて、カイザー要塞で一瞬見せたものと同じように見える。 闇に対する激しい怒り・・・なのか?


「自分の負け・・・ですか」

「・・・。 伊織君は知らないかもしれないけど、うち、僕が小さいときに両親が離婚してさ・・・。 ある日、僕の知らないところで、家族が離れ離れになることになってしまったんだ・・・ 僕は、父さんも、母さんも、お兄ちゃんも・・・みんな大好きだったのに・・・ 僕は母さんに引き取られ、お兄ちゃんは父さんと一緒に、別れて暮らすことになった。 お兄ちゃんは器用で、料理でも何でもできて、仕事で遅くなる父さんを助けて・・・ それに比べて、まだ小さかった僕は、仕事と家事で人の2倍忙しい母さんの足手まといになるんじゃないかって、常に心のどこかでおびえてた。 僕だって、つらい思いをしてきたんだ。 でも、おびえてるだけじゃ何の解決にもならないことは、その当時の僕にだってわかってた。 だからこそ、常に一人前になろうと努めてきた・・・。 誰にだって、生きていればつらいことだって起こる。 でも、それに勝つのも負けるのも、自分なんだよ。 それなのに・・・それなのに・・・」


タケルさんの声は途中でフェードアウトしてしまった。 だけど、タケルさんの言いたいことは、なんとなくだけど、僕にもわかる気がする。 そう、つらい思いをしている人が皆罪を犯している訳じゃない。 自分のすることに責任の取れない人なんて・・・。 それに、初めてタケルさんの心の声を聞いた気がする。 いつも、どんな時でもしっかりしていて、周りの人にも常に気を遣うタケルさんも、心の中には重荷を抱えてたんだ・・・。 そして、僕も・・・

===

「あ、あのさ・・・」

「え!?」

「だ、大輔さん!?」


突然教室の扉が開く音と同時に、そこに、先に帰ったはずの大輔さんが立っていた。


「ごめん、別に盗み聞きするつもりはなかったんだけど・・・ 伊織がなかなか戻ってこないんで、つい心配になって戻って来てみたら、ここから話し声が聞こえたから、つい・・・

なぁ、タケル・・・」

「なんだい、大輔君?」

「タケルってさぁ、何をやっても完璧な人間だから、俺たちみたいなダメ人間の気持ちなんてわからないかもしれないけどさ、お前も、ちったぁ、光子郎さんから聞いてるだろ、賢のこと。」

「う、うん・・・」

「そりゃ、どんな事情があったにせよ、アイツのやってきたことは、俺だって今でも許せないよ。 だって、俺なんて、土下座までさせられたんだぜ!!  ・・・でもさ、俺、アイツがカイザーになった気持ち、わかる気がするんだ。 うちは、姉貴共々バカ姉弟やってるから、親からヘンな期待されるわけでもないし、バカ姉貴はともかく、父さんも母さんも俺のこと見守っててくれてると思ってる。 だけど、ある日、何かの用事で、両親も、姉貴も帰りが遅くなって、家に俺一人だけになったりすると、ふと、ものすごく不安になるんだ・・・『このまま、誰もここへ戻って来なかったら?』ってさ。 別に、両親に愛されてないとか、そんな理由じゃなくたって、例えば、万が一事故に巻き込まれて、俺一人残されたら?って思うと、時々とてつもなく不安になるんだよな。 それが、アイツの場合は、下手に出来る兄貴を持ったがゆえに、常に比べられてさ・・・ そりゃ俺が一乗寺兄弟の親だったら、やっぱりどうしても天才兄貴に気が行くよ。 そんな状態が何年も続いて行くうちに、誰かにかまって欲しい、誰かに、自分のことを気にしていて欲しいって思うようになるのは、無理ないと思うんだよな。 俺だって、両親が姉貴ばかりちやほやしてたら、プチカイザーくらいにはなってたかも知れないって思うしさ。 お前だって、その気持ちは、痛いほどわかるだろ? お前も、同じように、周りにかまってもらいたいって必死にあがいてきたんだろ? さっき、そう言ってたじゃないか。 そりゃ、お前は強いから、自力で乗り越えられたかもしれないけど、一歩歩みを間違えたら、お前もカイザーになってたかもしれないって、考えたこと、ない?」

「・・・・・」

「俺さ、前からなんとなく思ってたんだけど、お前の、一乗寺を見つめる目って、きびしいだけじゃなくて、うらやましがってるように見えるんだ。 ほんとは、アイツみたいに、自分の感情に正直になりたいんじゃないのか? 心の寂しさに正直に反応してしまったアイツが、本当は羨ましいんじゃないのか? お前が、一番アイツの立場に近いから、だからこそよけい、自分が『しちゃいけない』と耐えてきたことを全てやり尽くしたあいつが許せないだけなんじゃないのか?」

「・・・・・」


ずっと黙って大輔さんの話を聞いていたタケルさんの肩が、かすかに震えている・・・。 それは、怒りから来る震えじゃない・・・ 抑えていたものが、表に出てこようとするのを、必死になって抑えている震え・・・。


「もっと、自分に素直になってもいいんじゃないかな。 俺、不器用だけどさ、お前の心なら、全身で受け止める自信あるよ。 だって、俺たち、同じ、選ばれし子供たちじゃんか。 みんな同じなんだからさ・・・・ 壁なんて、壊しちまおうよ」

「・・・大輔君・・・」


一言ポツリとつぶやいた後、タケルさんの肩の震えはさらに激しくなった。 それと同時に、今までずっと抑えていた感情が、目にたまって、頬を伝って流れ出す。 そして、そんなタケルさんを見ていた僕も・・・

そう、タケルさんにとって、一乗寺さんは「もしかしたらそうなっていたかもしれないもう一人の自分」の投影だったんだ・・・ 自分が、自分の感情に従ったらこうなってしまうと、あえて避けて耐えてきた象徴だったんだ・・・ そして、僕にとっても、一乗寺さんは象徴だった・・・ 父さんを殺した殺人犯の・・・。 

僕が彼を許せなかったのは、彼を許すと、僕から父さんを奪った犯人を許すことになりそうだったから・・・。 例え、理屈では、罪を犯すということは、誰にでもありうる過ちであり、罪を犯したらそれを償えばいいとわかっていても・・・ 罪を償うことで、有形のものは代償できるとしても・・・ 一度失われたものは二度と帰ってこない・・・父さんは二度と戻ってこない・・・ その気持ちが、そう、感情が、心を固くしていたんだ・・・。 失ってしまったものは二度と戻ってこない・・・ その気持ちは、一乗寺さんも痛いほど感じていたの・・・・。
立場の違いはあっても、僕も一乗寺さんも、同じつらさを分かち合っていた・・・ それを、僕は、一方的な感情で拒否しつづけてきた・・・。 僕だって、完璧な人間じゃない。 誰だって、人間である限り完璧じゃない・・・。 

「罪を憎んで、人を憎まず」

今なら、この言葉の意味がわかる気がする・・・。 一乗寺さんの気持ちも、そして、一乗寺さんに対するタケルさんの気持ちも・・・ 僕と同じ気持ち・・・

「僕も・・・僕も、ずっと一乗寺さんのことを受け入れられないでいました。 罪を犯した人間なのだから当然なんだと思っていました。 でも、そうじゃなかったんだ・・・ 僕は、一乗寺さんのことを、父を殺した殺人犯に重ねて、それで許せなかったんです。 そして、その殺人犯だって、一乗寺さんだって・・・ もし、自分が同じ立場にいたら、もしかしたら、彼らと同じことをしていたかもしれない・・・。 彼らをそうさせた事情があったのかもしれない・・・。 それなのに・・・僕は・・・」


気がつくと、僕もタケルさんも、目にあふれるものを抑えることが出来なかった。 放課後のパソコンルームで、男二人が男の胸で泣きはらしてるのは、はたから見たら異様な光景だったに違いない。 だけど、僕には、ようやくタケルさんの気持ちが伝わって来た・・・気がする。 明日から、一乗寺さんを見る僕らの目線は変わるかも知れない。 そのときこそ、僕たちの心は一つに分かり合える・・・だろう。

「もう、こんな時間だぜ。そろそろ家に帰らねぇと。顔、洗ってこいよ。」
「うん!」
「はい!」

<終>


■あとがき
ひえぇ、、ほんとに、ここまで読んでくださったあなた、感謝してもしきれませんです〜っm(__)m

大輔、ちょっとしゃべりすぎでしたかね^^; っていうか、こういうの、思ったことをベタで書いてちゃ、読み物としてはサイアクなんでしょうけど・・・ まぁ、前書きでも申しましたとおり、遊歩さん、もともと文章なんて書いたことないので、構成がなってないとか、漢字の変換が違うとか、いろいろ不手際があるかと思いますが、もともとこれは、自分の心のなかにとどめておくだけの単なる補完話で考えあげたものなので、その辺、どうかご勘弁くださいませ。

ちなみに、この補完話が出来るきっかけになったタケルの一乗寺さんに対する感情の解釈は、デジアド感想サイトをいろいろと回っているうちに、いろんな方の意見を聞いて形作られたものです。 本当は、お名前を挙げたいのですが、どのサイトで見かけた意見だか、すっかり見落としてしまったもので・・・ 「もし『自分のネタだ!!!』という方がいらっしゃいましたら、どうか遊歩までご連絡くださいませ。 お名前、挙げさせてくださいませ。 (って、この小さいサイトじゃ、目にとまらないか・・・・^^;)

ちなみに、02・45話(暗黒のゲート)を見終わったあとの補完話も、途中まで書きかけなんですけど・・・・
興味ある人なんているのかな? ま、誰も興味なくても、自分の欲求の赴くまま、完成したらアップしちゃうでしょうけどね^^; 

ってことで、また機会があったら裏45話でお会いしましょう^^;

Oct 17 2001作

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